大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1650号 判決

1 本件土地はもと地目が畑であり登記簿上訴外根岸吉和の所有名義となっていたものであるが、同人から順次訴外大谷保夫、同株式会社山三を経て昭和五四年一一月一七日控訴人がこれを買い受け、昭和五五年一月七日神奈川県知事に対して本件土地について農地法五条一項三号の規定による農地転用届出をし、同日受理された。本件土地の公簿面積は一五三三平方メートルであったが、その実測面積は一二七〇・五〇平方メートルであった。控訴人の夫山内正名は不動産業を営む者であり、株式会社山三からの本件土地の買い受けも実質的には同人によってなされ、被控訴人との本件売買契約に関しては同人の従業員である真野が控訴人の代理人として取引にあたった。

2 被控訴人は不動産の売買を業としていた者であるが、昭和五五年二月初めころ訴外岩本昭二から本件土地の売買の話が持ち込まれた。被控訴人は本件土地を宅地に造成して転売する目的でこれを買い受けるものであるため、同月八日、真野に対して右目的を告げ本件土地の北側に存する本件道路が二項道路(編注・建築基準法四二条二項の道路)であり本件土地上に建物の建築が可能であるか否かを確認したところ、同人が本件道路は公道で二項道路でもあり、本件土地上に建物の建築が可能である旨言明した。

3 本件道路は、幅員は約四メートルであって、乗用車の通行は可能であり、道路端には県道であることを示す杭が設置してあったので、被控訴人は真野の説明に疑問を抱くことなくこれを信じ、同人の説明とは別に自ら本件道路が二項道路であるのか、本件土地に建物の建築が可能であるのかを調査することなく請求原因1記載のとおり控訴人の代理人真野との間で本件土地売買契約を締結し、同3記載のとおり控訴人に対し手付金及び中間金として合計一三三六万円を支払った(本件売買契約の締結及び手付金・中間金の支払関係については当事者間に争いがない。)。

4 ところが、その後被控訴人において相模原市役所に確認したところ、本件道路は二項道路ではなく、現状のままでは建築基準法四二条に規定する道路が本件土地に接しないことになり、本件土地上に建物を建築することができないことが判明した。そのため、被控訴人は控訴人に対し昭和五五年四月二八日到達の内容証明郵便をもって本件売買契約解除の意思表示をなした。

5 その後、被控訴人は、昭和五五年一〇月八日本件土地を当時の所有者である訴外荒木商事株式会社から代金総額五〇〇〇万円で買受け(代金のうち五〇〇万円は被控訴人が控訴人に交付した前記金員のうちから支払われた。)、これとは別に同年一二月一〇日本件土地に通じる私道開設のため訴外今村政治に懇請して同人から本件土地南西部に接する神奈川県相模原市上溝五四三二番一の土地の一部一四三平方メートルを代金二一〇〇万円で買受け、これを取付道路として本件土地を宅地に造成し、大倉商事株式会社に取付道路と共に本件土地を約八五〇〇万円の対価をもって譲渡した。

原審証人山内正名の証言中右認定に反する部分は前顕各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

なお原審証人山内正名の証言中には「本件土地は道路がついていれば坪当り四〇万ないし五〇万円程度の価格が相場であり、本件売買契約のように坪当り一六万五〇〇〇円のような価格ではありえない」旨の供述部分がある。なるほど、被控訴人が今村政治から買受けた土地の価格は一四三平方メートルで二一〇〇万円(三・三平方メートル当り四八万四六一五円)であることは前示認定のとおりであるが、≪証拠≫によれば、右土地は被控訴人において本件土地を宅地として利用できるようにするために今村政治に懇請して特に高価で買い受けたものであること、右買受土地は平坦な土地であるのに対し、本件土地は傾斜地であることが認められるのであって、これをもって、ただちに右供述を採用することはできない。のみならず、前認定のように被控訴人が荒木商事株式会社から改めて本件土地(実測面積一二七〇・五〇平方メートル)を買受けた際の価格は五〇〇〇万円であり、私道として今村政治から買受けた土地(一四三平方メートル)の価格二一〇〇万円を合算した取付道路付きの本件土地の買受け価格が七一〇〇万円(三・三平方メートル当り一六万五七五八円)であること及び宅地に造成した後に被控訴人が大倉商事株式会社に右取付道路付きの本件土地を譲渡した価格が約八五〇〇万円(三・三平方メートル当り一九万八四四三円)であることに照らすと≪証拠≫は措信することができず、他に本件売買契約における本件土地売買価格が通常の相場より著しく低額であることを認めるに足りる証拠はない。

右事実によれば被控訴人は本件土地を宅地に造成して転売する目的で買受けるものであるから、本件道路が二項道路であり本件土地上に建物の建築が可能であることが売買契約の前提をなすものであり、被控訴人はその旨誤信して本件土地売買契約を締結したものであるから、その買受けの意思表示はその動機に錯誤がある。そして、右動機は控訴人の代理人真野に対して表示され、真野においてもこれを了知し、これが本件売買契約における重要な部分であることも、前認定の事実から明らかであるから、被控訴人のなした本件売買契約の意思表示はその要素に錯誤があるというべく本件売買契約は無効といわざるを得ない。

三 次に控訴人は被控訴人に重大な過失があると主張するので判断する。

控訴人は、二項道路は現に建築物が立ち並んでいることを要件とするところ本件道路の現況を一瞥しただけで本件道路が右要件を欠くことが明らかであると主張するが、建築基準法四二条二項によれば二項道路の要件である「現に建築物が立ち並んでいる」とは同法第三章の規定が適用されるに至った時点において建築物が立ち並んでいることを意味するのであって本件売買契約締結の時点において現に建築物が立ち並んでいることを要件とするものではないから現地を見ることによって直ちに本件道路が二項道路でないことが明らかであるとはいえないし、また本件売買契約における本件土地の価格が通常の価格よりも著しく低額であるわけでもなく、本件道路が二項道路で本件土地上に建物の建築が可能であるとの真野の説明に疑問を感ずべき特段の事情も見当らないから、被控訴人が当時不動産売買業者であることを考慮に入れても、同人が本件売買契約前に本件道路につき二項道路であるか否かを相模原市役所に確認していないことをもって、被控訴人に本件売買契約締結につき重大な過失があるということはできない。

(柳川 近藤 林)

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